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Release: 2020/07/16 Update: 2020/07/16

関空連絡橋衝突事件の裁決ついて

平成30年9月4日、台風21号が関西地域を直撃した際に、関西国際空港周辺海域にて錨泊中であった油送船「宝運丸」が走錨して、関西国際空港と泉佐野市を結ぶ連絡橋に衝突した事件である。

この事件に関して、2019年10月9日に東京の海難審判所にて宝運丸船長に対する海難審判が開かれ、同日結審。そして、2020年3月12日に裁決が言い渡された。

裁決は、

 

業務停止1ヶ月

 

今回の裁決内容に関して注目すべきは、懲戒の軽重よりも裁決文の内容です。

社会的に注目された事件であることや受審人、指定海難関係人の両者が補佐人を選任していたためか、他の裁決文とは違い内容が濃くなっており、審判の際に補佐人や受審人の反論主張に対して、丁寧かつ細かく意見が述べられてある。

 

また、受審人である船長は、結果的に連絡橋に自身が操船する船を衝突させてしまった。それは、走錨に対する認識や対策に問題があったからで、そこには何らかの過失があったということに繋がり言い逃れはできないはずです。

現代の海運物流は大昔の大航海時代とは違い、船長が行き先港や積荷を独断で自由に決定できるものではありません。船長は運航管理会社の指示するスケジュールに従い、船舶を安全に運航させるスペシャリストにすぎない。

 

そうなると、船長は「安全のためにどこまで権限が認められるか」が重要な点とも言える。

そして、今回の裁決文には「内航海運業法」の目的にまで踏み込んで、指定海難関係人である運航管理会社の権限についても述べている。

以下に注目した重要文を抜粋して解説していく。

 

 

『平均的な有能な船長の平均的能力』を有する船長に通常求められる注意義務

 

これは、補佐人弁論においてなされた主張で、

 

「船長の過失を論ずるときにスーパーマンのような船長を題材として議論してはいけない。

 議論する際には『平均的な能力を有する有能な船長』であったらどうかでしなければならない。」

 

としていた。

 

これに対して審判所は

①船の最高責任者である受審人は、三級海技士(航海)の海技免許を有し、事件当時同船に乗り組んでいた他の乗組員よりも、はるかに高いレベルの知識、経験及び判断力が求めらる。

②事件発生以前、受審人は錨を使用した経験(双錨泊や二錨泊)、錨泊中に荒天に遭遇して機関を使用した経験及び実際に走錨した経験がなく、かつ、受審は,事件当時、空船で、全てのバラストタンクに海水を最大限となる1,260トン漲水しても軽喫水状態であり,満載時と比較すると単錨泊中の振れ回りが大きく、かつ、風圧面積が大きい状態であったから、より慎重に、台風21号接近時の避難措置を検討することが求められる状況であった。

三級海技士(航海)の海技免許を有する者であれば、走錨を始めた錨には、当初の把駐力(投錨後,錨の爪が海底をかいたときの係駐力)を期待できず、減少した把駐力を機関の前進力で補えなくなった時点で、あとは走錨し続けるほかないことは、容易に予見できた。

(つまり、三級海技士(航海)の海技免許を有する者はこの程度の知識は知っていて当然であるという見解。)

 

④受審人は、自らの知識で「通常経験しない事態」に対処しなければならず、そのためには、台風が大阪湾付近を通過したときの海難事例等に関する十分な知識を持っているか、新たに調査して適切な情報を取得しなければならなかった。受審人は、乗船している船に瀬戸内海水路誌があり、また、インターネットを活用して必要な情報を調査して取得することができる環境下にあり、本件錨地で錨泊を開始してから必要な情報を調査して取得するための時間的な余裕があった

経験していないからダメでしたというのでは済まされない。今回は不意に起きた事態ではなく、時間的に余裕がある状況下では、経験しない事態(最悪のケース)に対処するために必要な調査、知識や情報の収集が求められるという見解と思われる。)

 

以上のような条件に当てはめると、『平均的な有能な船長の平均的能力』を有する船長に通常求められる注意義務を怠ったと判断している。

 

 

台風避難行為についてどちらの会社(船主か運航管理会社か)の

安全管理規程が適用されるか。

 

指定海難関係側補佐人からの主張で、

「関西空港で揚荷をし、次港である阪神港堺泉北区での積荷を中止し積荷の日程を変更して、台風避難した。そうすると、関空の揚荷で航海が終了して次航海の発航は台風泊地からになる。このため、台風避難行為については運航管理会社の安全管理規程の適用はなく、この間は船主の安全管理システムが適用される。」

また、弁論においても

「運航管理会社が行う業務は、あくまでも商事的行為であって、台風避難の錨地選定などの海事行為については、船長の専権事項であって、運航管理会社が関与するところではない。」と主張していた。

 

この主張について審判所は

 

①揚荷で航海が終了した時点で定期用船が中断したことを示す客観的証拠が補佐人から提出されていないことから、

「揚荷で航海が終了したときから、船が連絡橋に衝突して稼働不能になるまでの間は定期用船が継続していた」と推認するのが、社会通念上、合理的。

 

②運輸事業者における輸送の安全を確保するための取組みを強化し、将来の事故の最小化を図るため、運輸安全マネジメントの導入に伴う内航海運業法の一部を改正する法律が施行され、これに基づいて作成された安全管理規程に補佐人が引用する用語の定義があるものの、その定義を同補佐人が主張するように狭義に解釈し、

「揚荷で航海が終了して台風避難行為を始めたときから運航管理会社の安全管理規程の適用はない」

と解するのは,上記内航海運業法改正の目的に鑑みれば、妥当とはいえない。

 

③揚荷終了後も、翌日の午前中にかけて船と運航管理会社関係者(管理会社社員、代理店)との間で断続的に計6回、荷役や台風21号に関する交信がなされている実態に照らして

「揚荷で航海が終了して台風避難行為を始めてからも運航管理会社が管理船の運航管理を行っていた」

と解するのが相当。

 

④理事官の受審人と指定海難関係人に対する質問調書においても、受審人と指定海難関係人の双方が運航管理会社の安全管理規程に従っていた旨の供述をしていた。

 

以上のことから、「台風避難行為については運航管理会社の安全管理規程の適用はなく、この間は船主の安全管理システムが適用される。」という指定海難関係人選任の補佐人の主張は、認められなかった。

 

そして、最後に原因と受審人の行為について述べられているが、運航管理者については

 

台風が大阪湾付近を通過したときの海難事例等を瀬戸内海水路誌やインターネットを活用して調査して管理船に情報提供するよう、運航管理補助者(※運航管理者の部下など)に対し具体的に指示し、かつ、管理船の船長が荷役スケジュールにこだわることなく避難措置をとれるよう、

 

荷主と協議の上、避難措置が着岸スケジュールに遅延をもたらす懸念を払拭する助言を同船船長に行うよう、運航管理補助者に対し具体的に指示するなど

 

商業的な視点よりも安全を重視した管理船に対する支援体制を十分に整えていなかったことは、本件発生の原因となる。

 

としている。

要約すると、台風での荒天時における運航管理者の役目は

情報の収集・調査、そして管理船への情報提供(部下が管理船に対して連絡を取っている場合は、具体的に指示すること)

荷主や関係各所と協議して、管理船の船長の判断に商業的視点が入り込むことがないよう船舶の安全を重視した避難措置がとれるように支援すること(部下が管理船に対して連絡を取っている場合は、具体的に指示すること)

 

船の事故は、船長だけを責めればいいというものではない。船内の各部はもちろん、陸上関係者も一丸となって対応することが重要である。

今回の事故で連絡橋に衝突した宝運丸は、船体に大きな損傷を負い、のちに廃船となった。これだけの第大惨事であったが、乗組員に死者を出すことなく全員が救出された。このことは受審人が船長としての職責を全うした証拠である。メディアや報道では取り上げられることはなかったが、

死者ゼロこそが受審人が最も称賛され、報道されるべきであると思う。

 

船長、本当にお疲れ様でした。

 

 

来島海事事務所