労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)第38条第2項により読み替えて適用する同法第30条の2第3項の規定に基づき、船員に関し事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針を次のように定め、令和2年6月1日から適用する。
船員に関し事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
1 はじめに
この指針は、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号。以下「法」という。)第30条の2第1項及び第2項に規定する事業主が職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する船員の就業環境及び船内生活環境が害されること(以下「職場におけるパワーハラスメント」という。)のないよう雇用管理上講ずべき措置等について、法第38条第2項の規定により読み替えて適用する法第30条の2第3項の規定に基づき事業主が適切かつ有効な実施を図るために必要な事項について定めたものである。
船員は、陸上の労働者の労働環境と異なり、海上という孤立した状況で、かつ、船舶という閉鎖された労働環境に置かれているとともに、航海の態様によっては、船舶は生活の場でもあることから、事業主は、このような海上労働の特殊性を踏まえて、職場におけるパワーハラスメントに対して適切かつ有効な措置を講じなければならない。
2 職場におけるパワーハラスメントの内容
(1) 職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③船員の就業環境及び船内生活環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。
(2) 「職場」とは、事業主が雇用する船員が業務を遂行する場所を指し、当該船員が乗り組んでいる船舶(居住区域を含む。)以外の場所であっても、陸上の事務所等当該船員が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれる。
(3) 「船員」とは、船員法(昭和22年法律第100号)による船員をいう。
また、派遣船員については、派遣元事業主のみならず、船員派遣の役務の提供を受ける者についても、その指揮命令の下に労働させるものであることから、船員派遣の役務の提供を受ける者は、派遣船員についてもその雇用する船員と同様に、3(1)の配慮及び4の措置を講ずることが望ましい。なお、法第30条の2第2項、第30条の5第2項及び第30条の6第2項の労働者に対する不利益な取扱いの禁止については、派遣船員も対象に含まれるものであり、派遣元事業主のみならず、船員派遣の役務の提供を受ける者もまた、当該者に派遣船員が職場におけるパワーハラスメントの相談を行ったこと等を理由として、当該派遣船員に係る船員派遣の役務の提供を拒む等、当該派遣船員に対する不利益な取扱いを行ってはならない。
(4) 「優越的な関係を背景とした」言動とは、当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける船員が当該言動の行為者とされる者(以下「行為者」という。)に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指し、例えば、以下のもの等が含まれる。
・ 職務上の地位が上位の者による言動
・ 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・ 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
(5) 「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指し、例えば、以下のもの等が含まれる。
・ 業務上明らかに必要性のない言動
・ 業務の目的を大きく逸脱した言動
・ 業務を遂行するための手段として不適当な言動
・ 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた船員の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、船員の属性や心身の状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮することが適当である。また、その際には、個別の事案における船員の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることについても留意が必要である。
(6) 「船員の就業環境及び船内生活環境が害される」とは、当該言動により船員が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、船員の就業環境及び船内生活環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該船員が就業及び船内で生活する上で看過できない程度の支障が生じることを指す。
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業及び船内で生活する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当である。
(7) 職場におけるパワーハラスメントは、(1)の①から③までの要素を全て満たすものをいい(客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。)、個別の事案についてその該当性を判断するに当たっては、(5)で総合的に考慮することとした事項のほか、当該言動により船員が受ける身体的又は精神的な苦痛の程度等を総合的に考慮して判断することが必要である。
このため、個別の事案の判断に際しては、相談窓口の担当者等がこうした事項に十分留意し、相談を行った船員(以下「相談者」という。)の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、相談者及び行為者の双方から丁寧に事実確認等を行うことも重要である。
これらのことを十分踏まえて、予防から再発防止に至る一連の措置を適切に講じることが必要である。
職場におけるパワーハラスメントの状況は多様であるが、代表的な言動の類型としては、以下のイからヘまでのものがあり、当該言動の類型ごとに、典型的に職場におけるパワーハラスメントに該当し、又は該当しないと考えられる例としては、次のようなものがある。
ただし、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、また、次の例は限定列挙ではないことに十分留意し、4(2)ロにあるとおり広く相談に対応するなど、適切な対応を行うようにすることが必要である。
なお、職場におけるパワーハラスメントに該当すると考えられる以下の例については、行為者と当該言動を受ける船員の関係性を個別に記載していないが、(4)にあるとおり、優越的な関係を背景として行われたものであることが前提である。
イ 身体的な攻撃(傷害・暴行)
(イ) 該当すると考えられる例
① 殴打、足蹴りを行うこと。
② 相手に物を投げつけること。
(ロ) 該当しないと考えられる例
① 誤ってぶつかること。
ロ 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
(イ) 該当すると考えられる例
① 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。
② 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
③ 他の船員の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
④ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の船員宛てに送信すること。
(ロ) 該当しないと考えられる例
① 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない船員に対して一定程度強く注意をすること。
② 船舶の業務の内容や船舶においては船員の安全確保が必要であるという性質等に照らして重大な問題行動を行った船員に対して、一定程度強く注意をすること。
ハ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(イ) 該当すると考えられる例
① 自身の意に沿わない船員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、下船を命じたりすること。
② 一人の船員に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。
(ロ) 該当しないと考えられる例
① 新規に採用した船員を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること。
② 懲戒規定に基づき処分を受けた船員に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること。
ニ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
(イ) 該当すると考えられる例
① 業務上の必要性がないにもかかわらず、長期間にわたり、肉体的苦痛を伴う過酷な作業を命ずること。
② 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業務を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。
③ 船員に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。
(ロ) 該当しないと考えられる例
① 船員を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること。
② 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること。
ホ 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
(イ) 該当すると考えられる例
① 特定の船員を退職させるため、専ら当該船員の職能に見合わない、誰でも遂行可能な業務を行わせること。
② 気にいらない船員に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。
(ロ) 該当しないと考えられる例
① 船員の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること。
ヘ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
(イ) 該当すると考えられる例
① 船員を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
② 船員の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該船員の了解を得ずに他の船員に暴露すること。
③ 業務上の必要性がないにもかかわらず、船員の意に反して、当該船員の居室に繰り返し立ち入ること。
(ロ) 該当しないと考えられる例
① 船員への配慮を目的として、船員の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。
② 船員の了解を得て、当該船員の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者や船長に伝達し、配慮を促すこと。
この点、プライバシー保護の観点から、ヘ(イ)②のように機微な個人情報を暴露することのないよう、船員に周知・啓発する等の措置を講じることが必要である。
3 事業主等の責務
(1) 事業主の責務
法第30条の3第2項の規定により、事業主は、職場におけるパワーハラスメントを行ってはならないことその他職場におけるパワーハラスメントに起因する問題(以下「パワーハラスメント問題」という。)に対するその雇用する船員の関心と理解を深めるとともに、当該船員が他の船員(他の事業主が雇用する船員及び求職者を含む。以下「他の船員」という。)に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる同条第1項の広報活動、啓発活動その他の措置に協力するように努めなければならない。なお、職場におけるパワーハラスメントに起因する問題としては、例えば、船員の意欲の低下等による職場環境の悪化や職場全体の生産性の低下、船員の健康状態の悪化、休職や退職などにつながり得ること、これらに伴う経営的な損失等が考えられる。
また、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、パワーハラスメント問題に対する関心と理解を深め、船員(他の事業主が雇用する船員及び求職者を含む。)に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
(2) 船員の責務
法第30条の3第4項の規定により、船員は、パワーハラスメント問題に対する関心と理解を深め、他の船員に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる4の措置に協力するように努めなければならない。
4 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容
事業主は、当該事業主が雇用する船員又は当該事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)が行う職場におけるパワーハラスメントを防止するため、雇用管理上次の措置を講じなければならない。
(1) 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
事業主は、職場におけるパワーハラスメントに関する方針の明確化、船員に対するその方針の周知・啓発として、次の措置を講じなければならない。
なお、周知・啓発をするに当たっては、職場におけるパワーハラスメントの防止の効果を高めるため、その発生の原因や背景について船員の理解を深めることが重要である。その際、職場におけるパワーハラスメントの発生の原因や背景には、船員同士のコミュニケーションの希薄化等の職場環境の問題もあると考えられる。そのため、これらを幅広く解消していくことが職場におけるパワーハラスメントの防止の効果を高める上で重要であることに留意することが必要である。
イ 職場におけるパワーハラスメントの内容及び職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、船員に周知・啓発すること。
(事業主の方針等を明確化し、船員に周知・啓発していると認められる例)
① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を規定し、当該規定と併せて、職場におけるパワーハラスメントの内容(船内生活上における留意事項も含む。以下同じ。)及びその発生の原因や背景を船員に周知・啓発すること。
② 社内報、パンフレット、職場における掲示物等広報又は啓発のための資料等に職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景並びに職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を記載し、配布等すること。
③ 職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景並びに職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を船員に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施すること。
ロ 職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、船員に周知・啓発すること。
(対処方針を定め、船員に周知・啓発していると認められる例)
① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を船員に周知・啓発すること。
② 職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者は、現行の就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、これを船員に周知・啓発すること。
(2) 相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために、船員又は船員が乗り組んでいる船舶と船員の労務管理の事務を行う事務所との間の連絡体制等の必要な体制の整備
事業主は、船員からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、次の措置を講じなければならない。
イ 相談への対応のための窓口(以下「相談窓口」という。)をあらかじめ定め、船員に周知すること。
なお、船舶は閉鎖された環境であり、かつ、限られた乗組員で業務を遂行していることを踏まえ、船員の労務管理の事務を行う事務所等船内以外の場所に、船員が直接相談を行うことができる窓口を置く等相談し易い体制の整備を図るべきである。
(相談窓口をあらかじめ定めていると認められる例)
① 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること。
② 相談に対応するための制度を設けること。
③ 外部の機関に相談への対応を委託すること。
ロ イの相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、相談窓口においては、被害を受けた船員が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。例えば、放置すれば就業環境及び船内生活環境を害するおそれがある場合や、船員同士のコミュニケーションの希薄化等の職場環境の問題が原因や背景となってパワーハラスメントが生じるおそれがある場合等が考えられる。
(相談窓口の担当者が適切に対応することができるようにしていると認められる例)
① 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること。
② 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること。
③ 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと。
(3) 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
事業主は、職場におけるパワーハラスメントに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次の措置を講じなければならない。特に、相談者が行為者と、船内生活を共にせざるを得ない状況における相談者の精神的な苦痛を考慮し、可能な限り迅速に対処すべきである。
イ 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
(事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認していると認められる例)
① 相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認すること。その際、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮すること。
また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること。
② 事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、法第30条の6に基づく調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること。
ロ イにより、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた船員(以下「被害者」という。)に対する配慮のための措置を適正に行うこと。
(措置を適正に行っていると認められる例)
① 事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること。
② 法第30条の6に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対して講ずること。
ハ イにより、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと。
(措置を適正に行っていると認められる例)
① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるパワーハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換(転船や当直ローテーションの変更を含む。)、行為者の謝罪等の措置を講ずること。
② 法第30条の6に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること。
ニ 改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること。
なお、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること。
(再発防止に向けた措置を講じていると認められる例)
① 職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針及び職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、職場における掲示物等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること。
② 船員に対して職場におけるパワーハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること。
(4) (1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置
(1)から(3)までの措置を講ずるに際しては、併せて次の措置を講じなければならない。
イ 職場におけるパワーハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該パワーハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を船員に対して周知すること。なお、相談者・行為者等のプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれるものであること。
(相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていると認められる例)
① 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応するものとすること。
② 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと。
③ 相談窓口においては相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを、社内報、パンフレット、職場における掲示物等広報又は啓発のための資料等に掲載し、配布等すること。
ロ 法第30条の2第2項、第30条の5第2項及び第30条の6第2項の規定を踏まえ、船員が職場におけるパワーハラスメントに関し相談をしたこと若しくは事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、地方運輸局(運輸監理部を含む。)に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと又は調停の出頭の求めに応じたこと(以下「パワーハラスメントの相談等」という。)を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、船員に周知・啓発すること。
(不利益な取扱いをされない旨を定め、船員にその周知・啓発することについて措置を講じていると認められる例)
① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、パワーハラスメントの相談等を理由として、船員が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、船員に周知・啓発をすること。
② 社内報、パンフレット、職場における掲示物等広報又は啓発のための資料等に、パワーハラスメントの相談等を理由として、船員が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、船員に配布等すること。
5 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し行うことが望ましい取組の内容
事業主は、当該事業主が雇用する船員又は当該事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)が行う職場におけるパワーハラスメントを防止するため、4の措置に加え、次の取組を行うことが望ましい。
(1) 職場におけるパワーハラスメントは、セクシュアルハラスメント(船員に関し事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成19年国土交通省告示第278号)に規定する「職場におけるセクシュアルハラスメント」をいう。以下同じ。)、育児休業等に関するハラスメント(子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる船員の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針(平成22年国土交通省告示第703号)に規定する「職場における育児休業等に関するハラスメント」をいう。)、妊娠、出産等に関するハラスメント(船員に関し事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成28年国土交通省告示第1422号)に規定する「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント」をいう。)その他のハラスメントと複合的に生じることも想定されることから、事業主は、例えば、セクシュアルハラスメント等の相談窓口と一体的に、職場におけるパワーハラスメントの相談窓口を設置し、一元的に相談に応じることのできる体制を整備することが望ましい。
(一元的に相談に応じることのできる体制の例)
① 相談窓口で受け付けることのできる相談として、職場におけるパワーハラスメントのみならず、セクシュアルハラスメント等も明示すること。
② 職場におけるパワーハラスメントの相談窓口がセクシュアルハラスメント等の相談窓口を兼ねること。
(2) 事業主は、職場におけるパワーハラスメントの原因や背景となる要因を解消するため、次の取組を行うことが望ましい。
なお、取組を行うに当たっては、船員個人のコミュニケーション能力の向上を図ることは、職場におけるパワーハラスメントの行為者・被害者の双方になることを防止する上で重要であることや、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当せず、船員が、こうした適正な業務指示や指導を踏まえて真摯に業務を遂行する意識を持つことも重要であることに留意することが必要である。
イ コミュニケーションの活性化や円滑化のために研修等の必要な取組を行うこと。
(コミュニケーションの活性化や円滑化のために必要な取組例)
① 日常的なコミュニケーションを取るよう努めることや定期的に面談やミーティングを行うことにより、風通しの良い職場環境や互いに助け合える船員同士の信頼関係を築き、コミュニケーションの活性化を図ること。
② 感情をコントロールする手法についての研修、コミュニケーションスキルアップについての研修、マネジメントや指導についての研修等の実施や資料の配布等により、船員が感情をコントロールする能力やコミュニケーションを円滑に進める能力等の向上を図ること。
ロ 適正な業務目標の設定等の職場及び船内生活環境の改善のための取組を行うこと。
(職場及び船内生活環境の改善のための取組例)
① 適正な業務目標の設定や適正な業務体制の整備、業務の効率化による過剰な長時間労働の是正等を通じて、船員に過度に肉体的・精神的負荷を強いる職場及び船内生活環境や組織風土を改善すること。
(3) 事業主は、4の措置を講じる際に、必要に応じて、船員や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることが重要である。なお、船員や労働組合等の参画を得る方法として、例えば、船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和42年法律第61号)第11条第1項に規定する安全衛生委員会や船員労働安全衛生規則(昭和39年運輸省令第53号)第1条の3第1項に規定する船内安全衛生委員会の活用等も考えられる。
6 事業主が自らの雇用する船員以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容
3の事業主及び船員の責務の趣旨に鑑みれば、事業主は、当該事業主が雇用する船員が、他の船員のみならず、個人事業主、インターンシップを行っている者等の船員以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)自らと船員も、船員以外の者に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望ましい。
こうした責務の趣旨も踏まえ、事業主は、4(1)イの職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、当該事業主が雇用する船員以外の者(他の事業主が雇用する船員、就職活動中の学生等の求職者及び船員以外の者)に対する言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましい。
また、これらの者から職場におけるパワーハラスメントに類すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえて、4の措置も参考にしつつ、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい。
7 事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや荷主をはじめとした顧客等(以下「顧客等」という。)からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容
事業主は、取引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する船員が就業環境及び船内生活環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、例えば、(1)及び(2)の取組を行うことが望ましい。また、(3)のような取組を行うことも、その雇用する船員が被害を受けることを防止する上で有効と考えられる。
(1) 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
事業主は、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関する船員からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、4(2)イ及びロの例も参考にしつつ、次の取組を行うことが望ましい。
また、併せて、船員が当該相談をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、船員に周知・啓発することが望ましい。
イ 相談先(上司、職場内の担当者等)をあらかじめ定め、これを船員に周知すること。
ロ イの相談を受けた者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。
(2) 被害者への配慮のための取組
事業主は、相談者から事実関係を確認し、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為が認められた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための取組を行うことが望ましい。
(被害者への配慮のための取組例)
事案の内容や状況に応じ、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に一人で対応させない等の取組を行うこと。
(3) 他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組
(1)及び(2)の取組のほか、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為からその雇用する船員が被害を受けることを防止する上では、事業主が、こうした行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取組を行うことも有効と考えられる。
また、船種等によりその被害の実態や必要な対応も異なると考えられることから、船種等における被害の実態や業務の特性等を踏まえて、それぞれの状況に応じた必要な取組を進めることも、被害の防止に当たっては効果的と考えられる。