船員の有給休暇の計算は、通常の労働基準法が適用される陸上従業員と比べると非常に複雑です。その理由の一つが乗船する船舶の航行区域によっても付与日数が異なる点です。
このページでは全ての船員について取り上げると複雑になるため、「内航船員」をターゲットに解説しします。また、このページでは船員法上、「船舶所有者」と規定されている文言は、内航海運業界の船舶の運航形態や船員との雇用関係などにより同法が適用となる事業者が異なるため、単に「事業者」と記載しています。
※内航船員・・・航行区域:沿海区域、航路:日本全域(不定期航路)
- 原則
- 新入社員(新人船員・中途採用船員)
事業者は、船員が同一の事業に属する船舶において初めて6カ月間連続して勤務(※1)に従事したときは、その6カ月の経過後1年以内にその船員に10日の日数の有給休暇を与えなければなりません。(船員法74条1項、75条2項)
※1:船舶の艤装又は修繕中の勤務を含みます。 - 現在勤務している船員(連続勤務6カ月経過後)
事業者は、船員が6カ月間連続した勤務の後に事業者の同一の事業に属する船舶において1年間連続して勤務に従事したときは、その1年の経過後1年以内にその船員に15日の日数の有給休暇を与えなければなりません。(船員法75条4項) - 連続勤務期間について
連続勤務期間は、連続して勤務(船舶のぎ装又は修繕中の勤務を含む。)に従事した期間をいいます。この期間中に毎日働くことを意味するものではなく、週休日、補償休日や有給休暇が含まれます。また、以下の期間も連続勤務期間に含めなければなりません。(船員法74条4及び5項 、 船員法施行規則49条の2)- 同一の事業に属する船舶における勤務に準ずる期間
- 他の船舶所有者の行う事業に属する船舶における勤務(他の船舶所有者に雇用されて従事したものを除く。)
- 船舶における勤務に係る技能の習得・向上等を目的として受ける教育訓練であって、船舶所有者の職務上の命令に基づくもの
- 係船中の船舶における勤務(他の船舶所有者に雇用されて従事したものを除く。)同一の船舶における連続した勤務のうち、当該船舶が他の船舶所有者の事業に属する間に従事したもの
- 船員が職務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため勤務に従事しない期間
- 育児休業をした期間
- 介護休業をした期間
- 女子船員が、妊娠中又は出産後8週間、勤務に従事しない期間
- 船員の故意過失によらない1年当たり6週間以内の勤務中断の期間
※ここでの勤務中断は、職務上の負傷疾病や故意過失によらない職務外の負傷疾病、自宅待機、有給休暇以外の休暇(冠婚葬祭等)等の船員の責に帰すべきでない事由による中断を意味します。また、6週間以内の中断期間は、連続勤務したものとみなされます。また、船員が下船して予備船員となっていたとしても、当該期間は連続勤務期間に含めて計算されます 。
- 同一の事業に属する船舶における勤務に準ずる期間
- 新入社員(新人船員・中途採用船員)
- 例外
- 有給休暇の付与の延長
船舶が航海の途中にあるとき、又は船舶の工事のため特に必要がある場合において国土交通大臣の許可を受けたときは、当該航海又は工事に必要な期間(工事の場合にあつては、3カ月以内に限る。)、有給休暇を与えることを延期することができます。(船員法 74 条1及び3項)
※この延期が可能となる「航海の途中」は、一定の目的のもとに一つの単位として行われる一連の航海中を意味します 。また、 延期の対象となる 「船舶の工事」は、定期検査 、 中間検査 、 修理等の工事で船員が下船後もなお引き続き作業に従事しなければ工事を実施することが困難であることを要し 、また 、その対象船員も必要最小限の人数と期間に限られ 、 当該工事以前に有給休暇を与える得る機会が十分あったにもかかわらず 、 これを怠ったと認められる場合は許可されないなど 、 厳格に判断されます。 - 有給休暇の付与を延期した場合の日数の加算
- 新入社員の場合
連続勤務期間が6カ月経過後、3カ月又は1カ月増すごとに 、 所定日数を有給休暇
として加算して付与することができます。ただし、その場合でも加算分を含め、6カ月の連続勤務期間経過後1年以内に全ての有給休暇を与えなければなりません。6カ月経過以降の加算 連続した勤務が3カ月増すごと 航海の途中、工事期間の場合は1カ月増すごと +3日 +1日 - 現在勤務している船員(連続勤務6カ月経過後)
連続 勤務期間 が1年経過後、3か月又は1か月増すごとに、所定日数を有給休暇として加算して付与することができます。その場合でも、加算分を含め、1年の連続勤務期間経過後1年以内に全ての有給休暇を与えなければなりません。1年経過以降の加算 連続した勤務が3カ月増すごと 航海の途中、工事期間の場合は1カ月増すごと +3日 +1日
- 新入社員の場合
- 有給休暇の付与の延長
- 有給休暇の起算日
- 最初の有給休暇における起算日
入社後、最初の有給休暇における連続勤務期間の起算日は、勤務(船舶の艤装又は修繕中の勤務を含む。)の開始時点であり、雇入契約が成立すれば連続勤務期間が開始します。
ただし、雇入契約成立前であっても 、事業者の職務上の命令に基づき、船舶における勤務に係る技能の習得・向上等を目的とする教育訓練を受ける場合や係船中の船舶における勤務などの場合は、その開始日が起算日となります。(船員法施行規則49 条の2)
- 2回目以降の有給休暇における起算日
2回目以降の有給休暇付与における連続勤務期間の起算点は、前回の有給休暇の基礎となった連続勤務期間の終了日の翌日です。これは、有給休暇の分割付与を行なった場合であっても同様で、分割すべき有給休暇に係る連続勤務期間の終了日の翌日です。
- 最初の有給休暇における起算日
- 連続勤務期間の終了日
連続勤務期間の終了日は、有給休暇の付与日数によって変動します 。しかし、原則的な付与日数(初回10 日、2回目以降15 日)を与えている場合には、1年間の連続勤務期間に変更はなく、付与日数の管理も容易となります。
一方、有給休暇付与の延長により日数の加算を行った場合、実際に有給休暇を付与した日数によって、当該有給休暇に係る連続勤務期間が定まるため、付与日数によってその有給休暇に係る連続勤務期間の終了日が変わり、その結果、連続勤務期間が変動することになります。
このような変動による管理の煩雑さを回避するためには、2回目以降の有給休暇では、原則的な付与日数(内航船であれば15 日)を毎年付与し続けることが最適と言えます。
以下に、有給休暇の付与と連続勤務期間の関係を図を示します。
図1 有給休暇の付与と連続勤務期間の関係 - 連続勤務期間が中断した場合の起算日
連続勤務が中断した期間が1年当たり6週間を超えた場合における、次の連続勤務期間の起算日は、「中断期間が6週間となり、かつ、この期間を含め勤務が1年(入社後最初の有給休暇の場合は6カ月)となる始期で最も早い日」となります。
なお、これらのルール は最低限のものであるため、労使合意等によって、これを上回る基準(中断期間を6週間以上とするなど)を定めることができます。
- 最後に
船員に有給休暇が付与されない場合には、事業者は罰則6月以下の懲役又は30 万円以下の罰金の対象となります。
船員法第130条
船舶所有者が・・・第69条、第74条、・・・の規定に違反し、又は第73条の規定に基づく国土交通省令に違反したときは、当該違反行為をした者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
同法第135条
船舶所有者の代表者、代理人、使用人その他の従業者が船舶所有者の業務に関し第129条から第131条まで、・・・の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その船舶所有者に対して、各本条の罰金刑を科する。