食料金は課税対象??

内航船員に支給される食料金の取り扱いについて

 

 外航船の場合では、船内組織の構成として司厨部があり、司厨長(Chief Cook)、司厨手(2nd cook)、司厨員(Mess Man)が乗船している。
 実際には司厨長、司厨手の2名で献立作成、仕込み、調理を行い、朝・昼・夕の食事を乗組んでいる船員へ提供する。

 しかし、内航船の場合は、船の大きさや船種にもよるが、甲板部、機関部の法定職員と船員法上の法定定員を確保しているだけで、司厨部がいないケースがある。

 司厨部がいない船舶においては船長が業者に食料を注文して、船員の中で輪番(ローテーション)で船内にある食料を使って食事の用意を行うケースや船舶所有者等(※1)が船員へ食料金を支給して各自が用意するケースがある。
 ※1 船舶所有者等・・・船員に対する食料の支給義務は船舶所有者にあるとなっているが、船舶の管理形態により異なるため必ずしも船舶所有者(オーナー)とは限らない。後述解説あり(船員法第80条、第5条)

 後者の場合は、食料金を受け取った乗組員は停泊中に食料を買い出しにいく必要があるため、比較的航海日数が少なかったり、岸壁での停泊が多い船種で採用されている。その場合でも完全に各個人が自由に食事を作って食べるケースであったり、船員の中で食料金から毎月いくらか集めて夕食だけ輪番で調理するケースもある。

 内航船において司厨部船員を別途乗船させなければならないケースは少なく、それでも船内調理のために司厨部の職員1名(※2)を雇入、配乗するための費用だけを考えると、船員に食料金を支給した方がコストは安くなる。
※2 実際は交代制で乗船するため、1船舶に対して2名必要になり、給与や社会保険、労働保険料の費用も考える必要がある。

 

ここでよく質問として挙げられるのが、

「食料金は課税対象ですか?」

である。

 

 まず、この問題に関しては大きく3つに分けて考える必要がある。

  ①船員への食料の支給は法的義務か。

  ②食料の支給を金銭給付に替えることはできるのか。

  ③金銭給付とした場合の「食料金」は、課税対象となるのか。

 

 1つ目として、乗船中の船員への食料の支給については、陸上労働者とは異なり「船員法(昭和22年法律第100号)」において船舶所有者の義務となっています。

(食料の支給)
第80条 船舶所有者は、船員の乗船中、これに食料を支給しなければならない
② 前項の規定による食料の支給は、船員が職務に従事する期間又は船員が負傷若しくは疾病のため職務に従事しない期間においては、船舶所有者の費用で行わなければならない
③ 第一項の規定による食料の支給は、遠洋区域若しくは近海区域を航行区域とする船舶で総トン数七百トン以上のもの又は国土交通省令で定める漁船に乗り組む船員に支給する場合にあつては、国土交通大臣の定める食料表に基づいて行わなければならない。
④ 船舶所有者は、その大きさ、航行区域及び航海の態様を勘案して国土交通省令で定める船舶には、第一項の規定による船内における食料の支給を適切に行う能力を有するものとして国土交通省令で定める基準に該当する者を乗り組ませなければならない。

 

 ここで言う「船舶所有者」については、船員法第5条により、船舶の運航・管理形態により船員への食料の支給義務者及び費用負担が誰にあるのか分かります。
 例えば、船舶所有者が船員配乗せずに船舶管理会社と船舶管理契約を結んでいる場合は、船員への食料支給及び費用負担は船舶所有者ではなく、船員を使用している船舶管理会社にあると考えられます。

(船舶所有者に関する規定の適用)
第5条 この法律の規定(第11章の2、第113条第3項、第130条の2、第130条の3、第131条(第6号に係る部分に限る。)及び第135条第1項(第130条の2、第130条の3又は第131条第6号の違反行為に係る部分に限る。)を除く。)及びこの法律に基づく命令の規定(第11章の2の規定に基づく命令の規定を除く。)のうち、船舶所有者に関する規定は、船舶共有の場合には船舶管理人に、船舶貸借の場合には船舶借入人に、船舶所有者、船舶管理人及び船舶借入人以外の者が船員を使用する場合にはその者にこれを適用する。
 
 
 そして、2つ目の食料の支給を金銭給付に替えることができるかについて考えてみましょう。
 まず、ここで言う「食料の支給」は現物支給を指していると考えられます。船員法第80条第4項の国土交通省令に定める船舶として、「船内における食料の支給を行う者に関する省令(昭和50年運輸省令第7号)」の第1条の内容が参考になります。
 
(船内における食料の支給を行う者の乗組み)
第1条 船員法(以下「法」という。)第八十条第四項の国土交通省令で定める船舶は、次の表の上欄に掲げるとおりとし、同項の国土交通省令で定める基準は、同欄に掲げる船舶ごとにそれぞれ同表の下欄に掲げるとおりとする。
一 次に掲げる船舶以外の船舶であつて、その航海中に船員に支給される食料調理が船内において行われるもの(次号に掲げるものを除く。)
イ 平水区域を航行区域とする船舶
ロ 専ら平水区域又は船員法第一条第二項第三号の漁船の範囲を定める政令第二号の漁船の範囲を定める省令(令和二年国土交通省令第九十五号)別表の海域において従業する漁船
イ 十八歳以上であること(漁船に乗り組む者にあつては、十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了していること。)。
ロ 船内における調理に関する業務についての基礎的な知識を有していること。
 

 これにより支給される食料と調理が分かれていることから、あくまでも船舶所有者は船員に対して食料の支給(現物支給)に対する義務のみを負っていると考えられます。

 また、停泊中のみ調理を船内で行う場合は、上表の基準を満たす必要はありません。航海中において食料の調理が船内において行われるのみにおいて、右欄の基準を満たす者を乗組ませる必要があると考えられるからです。

 

 では、この食料の現物支給は金銭に替えて支給しても良いのでしょうか?

 これに関しては、船員が職務に従事している期間において、金銭給付に替えることができるといった根拠条文は見つかりませんでした。

 ただ、参考となる内容としては、船員の有給休暇中の「食費」についてです。

船員法
(有給休暇中の報酬)
第78条 船舶所有者は、有給休暇中船員に給料並びに国土交通省令の定める手当及び食費を支払わなければならない。
 
船員法施行規則
(有給休暇中の手当)
第49条の3 法第78条の規定による手当は、第40条第2号及び第3号に掲げる報酬(船舶、航海又は積荷の態様により支払われる報酬を除く。)とし、食費は乗船中支給しなければならない食料の費用の額と同額とする。
 
 食料の支給について金銭給付についての明確な根拠はないものの、有給休暇中の手当を算出するために乗船中の食料の費用をいくらにするの決めておかなければならないことになります。
 食料金はこの逆の考え方で、有給休暇中の手当として支給する食費を乗船中に金銭給付して食料に支給に替えていると考えられます。
 食料の支給を金銭給付に替えてもいいという根拠条文もないですが、金銭給付を禁止する条文もないのが現状であることから、船員法上は食料の支給を金銭給付に替えることは違法とまでは言えないことになります。
 
 では最後に、食料の支給に替わった金銭給付に対しては、課税されるのでしょうか。
 
所得税法(昭和40年法律第33号)

(非課税所得)
第9条 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
一~五 (略)
六 給与所得を有する者がその使用者から受ける金銭以外の物(経済的な利益を含む。)その職務の性質上欠くことのできないものとして政令で定めるもの

 

所得税法施行令(昭和四十年政令第九十六号)
(非課税とされる職務上必要な給付)
第20条 法第9条第1項第六号(非課税所得)に規定する政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一 船員法第80条第1項(食料の支給)の規定により支給される食料その他法令の規定により無料で支給される食料

 

 以上より、船員法の規定により支給される食料(現物支給)については非課税となるが、船員が使用者から受ける食料金(金銭)については非課税所得に該当しないことから、船員の食料金が課税対象となると考えられます。

【結論】

 船舶所有者等が船員へ支払う船員法に規定する食料の支給に替わる食料金は、課税対象となる。

 

※本結論はあくまで参考であり、個別の納税者に対して責任を持つものではありません。

 個別の税務の取り扱いにつきましては、所轄の税務署または税理士等専門家にご相談ください。

 

 

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