審判当日の心得

海難審判の受審人となられた方へ

 不運にも海難審判の受審人となられた場合、海事補佐人を選任していれば、選任した海事補佐人から助言がもらえますが、一人で審判廷に出廷するのは大きな不安があるかと思います。

 そのような受審人のために、海難審判の審理を円滑に進めるための事前に心得ておく内容です。

 

①本籍、住所を確認しておく。

 海難審判が開廷すると、必ず受審人に対して「人定尋問」が行われます。これは、出廷した受審人が審理対象となっている事件の本人であることを確認するためのものです。

 住所は覚えている方は多いのですが、本籍は日常生活で頻繁に書いたりする機会が少ないため覚えていない方が多いです。本籍が言えず、審理の初めからパニックとなってしまわないように、事前に自分の本籍を確認しておきましょう。

 

②海技免許の内容をしっかり把握しておく

 大型船に乗船される方は、自分の海技免状が何級か、航海か機関かは当然知っています。しかし、その中でも履歴限定解除されているものや近年ではECDISの能力限定といったものがありますので、もう一度自分の海技免状をよく見て確認しておきましょう。

 小型船舶に乗船される小型船舶操縦士免許の場合は、一級か二級だけでなく、特殊小型船舶操縦士免許(水上オートバイまたはジェットスキーを操縦するのに必要な免許)の「特殊」があるかも確認して下さい。また、特定免許(遊漁船や旅客を乗せて船舶を運航するのに必要資格)の「特定」があるのかも確認しておきましょう。

 最後に、最初に免許の交付を受けた時期と直近の免許を更新した時期も聞かれますので、免許証を見て確認しておきましょう。(例:平成〇〇年〇月頃に〇級航海を取得しました など)

 

③「他の海難審判所から呼び出しを受けているか」の質問

審判官より「本件(衝突事件)について他の海難審判所から呼び出しを受けていますか。」と質問があります。審判所ごとに管轄が分かれているため、1つの事件に対して2つの海難審判所に審判開始の申し立てがされることは、通常考えられない。そのため、ここでの回答は99%「いいえ、受けていません。」となるはずである。

ただし、審判開始の申立書が2つの海難審判所から送付されてきていた場合は、その時点で海事補佐人か、各海難審判所へお問い合わせください。

 

④事前に証拠書類の謄写(コピー)をしておく

 人定尋問が終わると、「証拠調べ」が始まります。この証拠調べは、理事官が取り調べた際に記録した供述調書や関係書類と各受審人側から提出された証拠を審判で採用しても良いかを意見する場となります。提出された証拠の内容や立証趣旨に関して、証拠提出者に質問することができます。明らかに事実と異なる内容の証拠に関しては、証拠として採用しないように意見することができます。ただし、証拠として採用するかしないかは、最終的に審判官が決定します。

 この証拠を1件1件確認していくと、膨大な時間が必要となるため、証拠の要目で確認していきます。当然、事件の当事者である受審人は、証拠が審理過程において使用され裁決の判断にも関わってくるため、証拠の内容を把握することは重要な権利です。ただ、審判が始まってから確認していたのでは、反論防御の準備が十分とはいえないばかりか、審理時間を長引かせるだけです。そのため、審判当日には、証拠書類の謄写を済ませておき、理事官の言い分や相手側の言い分を予想して反論防御するための準備を整えておきましょう。

 

⑤質問にたいしては、簡潔に答える。

 証拠調べが終わると、受審人に対して事件についての質問が始まります。審判でも言われますが、審判廷で述べたことは全て「証拠」となります。

質問は、通常、「審判官」(複数いる場合は、それぞれの審判官)→「理事官」→「海事補佐人」という順番で行われます。このとき、質問された内容とは関係のない事まで話す受審人が多く見受けられます。質問に対しては、一言もしくは一文で収まるくらいで回答するように心がけて下さい。更に深く内容について聞きたいのであれば、質問内容を変えて聞いてきます。

✖悪い例:理事官「他船がいることをレーダーで確認しなかったのですか。」

     受審人「レーダーでは見えなかったが、前方を見たら他船の航海灯が見えたので

         ・・・(略)、

         相手船が避けるのが普通じゃろ!(怒)」

〇良い例:理事官「他船がいることをレーダーで確認しなかったのですか。」

      受審人「他船はレーダーで確認していました。」

      理事官「確認したとき、プロットはしましたか。」

      受審人「はい、しました。」

      理事官「その際のCPAはいくつくらいだったか覚えていますか。」

            (略) スムーズに審理が進んでいきます。

 

 ※質問以外の事に答えたり、聞かれていない内容まで一緒に話すと事実が不明確になるばかりか、審理時間が長くなります。また、審判廷で相手船の受審人や補佐人に怒鳴ったり、証拠に基づかない主張は決して受審人の利益にはなりません。

 自分の意見や証拠を十分に主張できないと感じるのであれば、早い段階で海事補佐人に依頼をするべきです。

 

⑥自分の意見を述べるときは慎重に

 「理事官の審判開始の申立ての事実」「受審人の最終陳述」といった審判官から受審人に対して意見を求められます。ここでは、自由に意見をすることができます。しかし、自身は事件について過失を一貫して認めないという立場であれば、最終陳述で反省するような内容は述べるべきではないでしょう。

 

 以上が審判を受けるに当たって、事前に心得ておくべき内容として紹介しました。