船員労働の基本(船員保険)
現在、運輸局の窓口で雇入契約の届出、更新をする際には必ず次の3つの加入状態を確認されます。
①船員保険 ②労災保険 ③雇用保険 です。
この中の1つでも手続きが欠けていると船員として働けません。
①の船員保険については、海運会社に船員として就職すれば会社が
手続きをしてくれて手元に「船員保険」と書かれた被保険者証が届きます。
よくある疑問が
「陸上で働く人の健康保険と何が違うの?」
まず、船員保険とは、
海上で働く船員という特定の労働者を対象に、下記の給付を行うこと等により生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的としています。
①職務外の病気や怪我、出産、死亡及びその被扶養者(配偶者や子供など)の病気や怪我、出産、死亡に関して保険給付を行うものです。
②労働者災害補償保険による保険給付と併せて、職務上の事由または通勤(乗下船時の移動を含む。)による病気や怪我、障害または死亡に関して独自の保険給付
図1 船員保険制度概要
図1にあるように、船員保険と一般の健康保険の違いは、職務上のもしものときに手厚い補償をすることにあります。
船員保険独自給付に挙げられるのが、「行方不明手当」です。行方不明手当は、船員が職務上の事由により行方不明となり1ヶ月以上経過したときに、行方不明となった日の翌日から起算して3ヶ月を限度として、被扶養者に対して所得補償を行うためのものです。
職務上の病気や怪我による船員保険の上乗せ給付については、船員労働の基本(労災保険)編で説明します。
また、船員労働の特殊性によるものとして「下船後3ヶ月の療養補償」という制度があります。
船員は、雇入契約存続中に初めて発生した職務外の病気や怪我で医療機関を受診する際、療養補償証明書に必要事項を記入し、原則として船舶所有者が証明した上で、医療機関(調剤薬局)及び全国健康保険協会船員保険部に療養補償証明書を提出することにより、下船日(療養を受けることができる状態になった日)から3ヶ月目の日に属する月の末日までの間に限り、保険診療分について自己負担なしで受診することができます。
※通常の医療機関受診の場合は、健康保険や国民保険と同様に保険診療分について自己負担は3割。
ただし、虫歯や歯周病等は乗船前から罹患していたものが、たまたま乗船中に顕在化したものと考えられているため、原則対象外となります。
※1年以上操業・航海している遠洋マグロ漁船などに継続して乗船していて、その間に発症したものに限り、下船後3カ月の療養補償の対象になります。
よく船員の方が船員手帳の健康診断を受診される際に「船員保険会」の病院を利用されると思います。船員保険の運営主体(保険者)がこの「船員保険会」だと思われている方がいますが、間違いです。
船員保険の保険者は「全国健康保険協会」です。運営主体は陸上で働く人を変わりはありません。
正確には全国健康保険協会 船員保険部となります。
※ただし、一部の届出や手続きは日本年金機構 年金事務所となります。
「平成22年1月より、船員保険制度の改正が実施に移されました。」←←←詳しくはクリック。
あと、皆さんが感心がある内容としては、月々給料から天引きされている「保険料」ではないでしょうか。
船員保険料は、皆さんの標準報酬月額と標準賞与額に保険料率を乗じて(×(掛ける))算出されます。また、40歳以上65歳未満の方は、介護保険料を船員保険と併せて徴収されます。
「標準報酬月額と月額給料は何が違うの?」
船員の皆さんが受け取る給料(報酬)の実態を調査・算定した上で、一定の幅で区分したものを標準報酬月額といいます。この報酬月額は、船員保険に入った(被保険者の資格を取得した)ときに、その際の給料等に基づいて決定され、それによって標準報酬月額が決定されます。
特に船員の場合は、乗船中と休暇中では給料の増減が大きいため、頻繁にこの標準報酬月額が改定されます。
(参考)歩合でない船員の場合
①報酬の増減のあったときは、その翌月(増減のあった日が月の初日のときは、その月)から標準報酬月額を改定する。
②3歳に達するまでのお子さんを養育している人が育児することにより報酬が低下した場合は、育児休業等を終了した翌日から標準報酬月額を改定する。
「標準報酬月額の算定はどうやっているの?」
乗船する船舶が汽船(ディーゼル船も含む。)と漁船によって算定方法が異なります。
ここでは、汽船の算定方法について見ていきましょう。
汽船の場合、「汽船告示方式」と「全内航方式」があります。
さて、全内航方式は、1年を通じて船員として船舶所有者等に使用される以下の者です。
①基本となるべき固定給が下船することによって、逓減する報酬を受ける者
②基本となるべき固定給が乗下船に関わらず一定で、乗船することにより変動する諸手当をうける者
※全内航方式は、主として全国内航船主協会と全日本海員組合との労働協約によるものに適用。
(昭和43.6.17 庁保発第15号)
算定方法は
報酬月額 = 本給月額 × (過去1年間に支払われた総報酬 / 旧本給日額 × 雇用期間 )
●本給月額:1ヶ月間乗船したならば支給されるであろう各個人の本給をいい、定期昇給、ベースアップ等によりこの額に増減があったときは、新本給を用います。
●過去1年間に支払われた総報酬:過去1年間に支払われた乗・下船中の本給および各種諸手当の総額
●旧本給日額:標準報酬月額の改定月の前月に1ヶ月間乗船したならば支給されるであろう本給月額の30分の1に相当する額
●雇用期間:標準報酬月額の改定月前1年間に雇用された実期間の日数
仮に、乗船中の給料等から算出して標準報酬月額が300,000だとすると・・・
令和3年3月(4月納付分)の船員保険保険料率は
被保険者(40歳未満) 4.55% 、(40歳以上65歳未満)5.51%
40歳未満は、13,650円 40歳以上65歳未満は、16,530円 となります。
これと別に賞与の支給があったときも、支給される賞与を基に標準賞与額が決定され、同じ保険料率を乗じて保険料が決定されます。
ここで意識しておかなければならないのは、保険料は船員である皆さんだけが納めている訳ではありません。雇用主である船舶所有者や船舶管理会社(以下、船舶所有者等)も保険料を負担しています。
先程の例に挙げると、船舶所有者等の負担は
40歳未満は、18,300円(6.10%)
40歳以上65歳未満は、21,180円 (7.06%)
このように船員と雇用されている間は船舶所有者等も皆さんの保険料を負担してもらっているという認識をもたなければなりません。そのような認識があれば、休暇中は会社の方向に足を向けて寝ることはできないはずです。(笑)
次回は、労災についてです。乞うご期待下さい。
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