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Release: 2023/07/31 Update: 2023/07/31

本当に大丈夫?経済安全保障から見た輸送の確保

令和5年7月28日、「海事レポート2023」が国土交通省HPより公表されました。

報道発表資料:「海事レポート2023」を公表~昨今の海事分野を取り巻く動静や海事局の取組等をまとめました~ – 国土交通省 (mlit.go.jp)

「海事レポート 2023」を公表~昨今の海事分野を取り巻く動静や海事局の取組等をまとめました~令和5年7月28日 総務課企画室 (mlit.go.jp)

 

過去の海事レポートも以下のページより確認できます。

海事レポート – 国土交通省 (mlit.go.jp)

 

さて、最新の海事レポートを読みますと、令和4年に集計した外航日本隻数と外航日本人船員が分かります。

  2022年 (参考)2012年
外航日本籍船舶数(隻)

285

150
外航日本人船員数(人)

2,062

2,208

 

 現在発生しているウクライナ危機や緊張が高まる台湾有事を想定したときに、日本は島国であるため自国の海上輸送能力を利用して食料・エネルギー物資の安定的に調達しなければならない。

 それでは、日本の経済安全保障の観点から日本籍船舶数、日本船舶に乗り組む外航日本人船員数はどれくらい必要なのか。

 平成19年12月、「国土交通省 交通政策審議会海事分科会 ヒューマンインフラ部会が公表した答申「海事分野における人材の確保・育成のための海事政策のあり方について」には以下のような数字が示されている。

 

(2)船員数の将来の見通し

 i)外航船員の将来の見通し

  国際海上輸送部会において、外航日本人船員の必要規模について試算したと

 ころ、最低限必要な日本籍船は約450隻となり、これらの日本籍船を運航する

 のに必要な日本人船員は約5,500人となる。

 

つまり・・・・

 

全然足りてない!!!

 

 船員の働き方改革を通じて労働環境の整備が進んでいることから今後の船員数の増加に期待したいところであるが、昨今の緊迫した国際情勢の中、有事の際に必要な日本籍船・外航日本人船員の確保は果たして間に合うだろうか。

 人財育成は一朝一夕では実現しない。長い期間が必要だからこそ、早急にこの問題に真剣に取り組まなければ手遅れになってしまう恐れがある。何か抜本的な改革を打ち出して、船員として働くことによるメリットが大きくなり、船員教育機関を目指す学生や大手海運会社の新3級制度の受け入れ枠の拡大に繋げるようにできないものか。

 (例:外航船員の航海期間に応じた所得税・住民税の減免措置、新卒者から船長・機関長までの育成した場合おける企業に対して支払い給与額に応じた補助金 など・・・)

 

 日本籍船の数も大事ですが、船舶を建造する造船業の役割も経済安全保障を考える上では非常に重要です。

 世界の建造量の9割を日本・中国・韓国で建造しています。つまり、平時において日本造船業は、中国・韓国との熾烈な国際競争にさらされていて厳しい状況にある。厳しい国際競争に耐えて生き延びることができない造船事業者は撤退してしまい、造船事業者の数だけでなく、造船技術が衰退していくことに繋がる。平時でも造船事業者が安定的に建造できる環境はもちろん、有事の際に建造・修繕できる造船技術・能力を確保という観点からも考えておかなければならない。

 

練習船