海事分野から見た安全保障
コロナ渦の影響により乗組員交代が出来ずに長期乗船を強いられている全世界の船員に対して敬意を表します。
また、今後は乗組員交代が可能な特区や想定外長期乗船に対する対価など世界的に議論されることを切に願うばかりです。
さて、日本国内においては外出自粛により物的消費が落ち込んだことにより、一部の内航船が港に係留されている写真がSNSに投稿されたりしています。その他の船種についても同様の動きがあります。
現在は消費が落ち込んだことにより、一部の物流が停滞していることにより船が止まっていますが、次のような場合には果たして日本は大丈夫かと考えたことはあるでしょうか?
イランのホルムズ海峡封鎖発言や北朝鮮のミサイル発射など世界的に緊張が高まるケースは何度かありました。そのとき、本当に有事が発生したときには果たして日本は原油や食料を確保できるだけの備えは十分なのでしょうか?
日本の監督下に国際航海船舶(いわゆる外航日本籍船)は何隻あるでしょうか?
(船の船籍は客船ダイヤモンドプリンセスの件で、何かと話題になりましたね)
国土交通省が発表している「海事レポート」によれば、
2007年には「92隻」だったのが、5年後には「150隻」、
最新の隻数は
「261隻」です。(2018年集計・令和元年海事レポート)
外航海運に従事している外航船員はどうでしょうか?
2007年には「2505人」、5年後の2012年は「2208人」と減少していき、
最新の2018年は
「2098人」です。
船の隻数は増えているのに船員数が増えていないことに疑問を感じませんか?
実は1999年から外国人であっても国際条約締結国の資格証明書をもって、国土交通大臣の承認を受ければ、
日本の海技資格を持っていなくても日本船籍に乗り組むことができる
ようになったのです。
ただし、日本籍の乗組員のうち、船長と機関長に関しては日本の海技資格を有した者(つまり日本人)でなくてはなりませんでした。
それが、2019年に要件が撤廃されて、
承認を受けた外国人も船長、機関長として乗り組むことができるようになりました。
外から船を見れば、船籍は東京、船名〇△丸であるけれども、
船員は全員外国人と言うわけです。
そして、日本籍が増えないために日本政府が考えた秘策は
「準日本船舶制度」です。
これは外国船籍の船であっても実質日本の海運会社が支配している外国子会社が運航している船舶で、いざというときには日本籍に転籍できるように契約を結んでいれば「準日本船舶」として認定され、海運会社は税制優遇を受けられることになります。
このように日本籍船や準日本船舶の増加により、いざという時の物流に必要な船は多いが、船に乗り込む船員は絶対的に少ないのが現状です。
(内航船に乗っている船員を無理やり外航船に乗せようと考えている・・・・(笑))
最新の技術で何でも無人化、自動化が進んでいます。
最近の海事関係のニュースでは、大手海運会社や財団、国が連携して自動航行船実用化に向けて協力を打ち出したとありました。
あと何年後に実現するかはわかりませんが、自動化・無人化・自律航行によって出入港時でも船橋が一人になる時代が来るのでしょうか?
無人自律化の推進と船員の増加は相反する政策ではあります。平時においては無人化の船で経済を回せるでしょうが、安全保障の観点から考えたときには最低限の船員がいないことには石油、ガス、食料は輸入できません。
※当事務所は国による船員の徴兵制には断固として反対を表明します。
来島海事事務所