客船桟橋衝突事件の海難審判裁決について
令和元年が終わろうとしていたとき海難審判所のホームページに1つの裁決文が公表されていました。一時期昼のワイドショーでも取り上げられた事件について、令和元年10月31日横浜地方海難審判所で
裁決が行なわれていました。(平成31年横審第14号)
結論から申し上げると、操船の指揮を執っていた船長に対する懲戒は
業務停止1ヶ月という内容でした。
なぜこの内容になるのか全く理解できません。
理由としては、
⑴受審人は審理を欠席しており、事件に対して弁明はもちろんだが、
反論すらしていない。
⑵審判所の飲酒に対する意識が世間と乖離している。
また、飲酒の事実について裁決文では詳細に説明されていなく、
操船ミスの原因としていない。
裁決文では次のように記載されています。
a受審人は,アプラ港でのアメリカ合衆国沿岸警備隊 の立入検査を無事終えたことで緊張感が緩んでいたところ,機関長 から祝杯を誘われ,発航予定を約4時間後に控えた同日16時45 分頃機関長室に赴き,アルコール濃度6パーセントのハイボールと 称するウイスキーをソーダ水で割ったもの350ミリリットルなど を飲み,計算上,飲酒終了から約3時間後となった発航時刻までに ほとんど体内で分解される純アルコール量約29.4グラムを摂取 し,18時00分頃自室に戻り,18時30分頃から19時45分 頃まで仮眠を取った後,20時00分昇橋して出港準備を始めた。
「ほとんど体内で分解される純アルコール量約29.4グラムを摂取」と決めつけているが、事故後のアメリカ捜査当局にて船長からアルコールが検出されたとある。アメリカ運輸安全委員会の事故調査報告書では、
the pilot noted that the master smelled of alcohol just after the accident.
以上から考察すれば、操船当時に酒気を帯びていたのではないでしょうか。アルコールが分解されていたという内容には疑問が残ります。
⑶ 当時の乗客は全員下船させられ、クルーズはキャンセルとなり予定の変更を余儀無くされています。これだけの影響を及ぼしていることは、
海難審判法施行規則第5条第1項第六号の
「特に重大な社会的影響を及ぼしたもの」として該当する可能性があるものと思われます。
⑷ ⑴〜⑶を考慮すれば、業務停止1カ月はあまりにも懲戒処分として軽すぎる。車でも事故をすれば人命は奪われることもあります。船はもっと巨大で事故をすれば人や施設、海洋に与える影響は遥かに大きいはずです。海技免許にはそれだけの大きな責任と厳格さが求められるものだと思います。