船内の感染防止は誰が対策を講じなければならないのか。
連日東京の各キー局では、
外国船籍のクルーズ船「DIAMOND PRINCESS」
で蔓延している新型コロナウイルスについて報道されました。また、SNSなどでも
船内の状況などが発信されました。そして、同じ運航会社の
「GRAND PRINCESS」
においても船内感染が起きたとの報道がありました。
今回政府がクルーズ船の乗客に対して行った船内待機や隔離措置に、国内や
世界から様々な意見が取り上げられています。その意見の多くは否定的なもので、
政府の取った措置が感染を広げたのではないかという意見が多いように思えます。
そして、最近では日本政府の初動対応の遅さ、なぜクルーズ船に対して対応を
指示しなかったのかというような、まるで最初から日本に責任があるような
記事や発言を目にします。
次はアメリカ政府がどのような対応をとるのか。そして、その対応が日本と
比較されて今後の感染防止対策の策定に寄与することを期待するしかありません。
これは日本政府や海事関係者が国際社会に対してはっきりと意見や反論する
方々が出てこないためです。
では、
ウイルス蔓延した責任は誰にあるのか?
第1はアメリカ運航会社。そして、運航会社の監督責任はイギリスにあるため、
第2はイギリスにあると考えます。
運航会社についての責任は以下の通りです。
まず、船内の感染防止を取る決定権はクルーズ船の船長にあります。
船長は運航や船舶の安全に関して決定を下す責任と権限を有しており、
乗組員を指揮監督し、かつ、船内にいる者(乗客を含む。)に対して自己の
職務を行うのに必要な命令をすることができます。
そして、必要に応じて会社の支援を要請できます。
船長を監督する運航会社はどうでしょうか。
運航会社は今回のように香港で下船した乗客が新型肺炎に感染していた
という情報を入手したのであれば、管理するクルーズ船に対して情報提供や
感染防止の措置を講じるように各船の船長に指示をしなければなりません。
その最高責任者は運航会社の社長であり、それは運航会社がISMコードに
沿って作成されるべき安全管理マニュアルにも規定してあるはずです。
また、船長にはある権限があることは全く報じられませんでした。
それは「超越権限」です。
船長には「超越権限」というものが規定されています。
これは、船長は海上においてマニュアルの規定及び法令の規定に関わらず、
乗組員もしくは船舶の安全や環境保護の確保に関して、その場において
最善と思われる判断行為をとることができます。
その判断がマニュアルや法令に反すると思えても、その権限を
行使することができるのです。
船長が新型肺炎の蔓延する危険性を判断して、乗客の私権を
制限することになっても外出禁止としてそれぞれの自室で待機を
命じる措置を講じることができれば、ここまでの被害は拡大しなかったかもしれません。
第2のイギリスの責任についてです。
クルーズ船の船籍はイギリスです。この状況における乗客の立場を
分かりやすく言うと、船に乗っている乗客はイギリスの領土に
いることになり、イギリスで旅行しているのと同じです。
排他的管轄権だとか難しい話はありますが、イギリスで旅行している
人たちはイギリスのルールに従うことになり、イギリス政府に関係なく
日本政府が干渉することは基本できません。
イギリス船籍のクルーズ船を運航している会社を監督することができるのは、
基本的にはイギリスです。
実際には運航会社の安全管理マニュアルなどを直接検査しているのは
船籍国ではないことが多いです。検査する機関は船籍国の認定を受けた
第三者機関、「船級協会」と呼ばれているものです。船級協会の承認や
検査に関して監督できるのは船籍国の監督官庁だけになります。
今回の運航会社がどこの船級協会の検査を受けているかはわかりませんが、
その船級協会の監督はイギリスがすることができます。
運航にと止まらず船内の安全衛生に対して指導監督できる
最後の砦はイギリス政府なのです。
船内で多くの感染者が発生したことについては、今回の新型肺炎ウイルスの性質が
はっきりしていないしていないことも大きな要因にあると思います。
その性質は、「空気感染」するかどうかです。
万が一に空気感染するのであれば、船内での隔離はふさわしくなく
感染を広げる要素があります。
それは船の空調システムにあります。
空調の一部の空気が船内循環されていることがあります。
空調で空気を供給するエリアは一か所から船内に供給しているわけではなく、
各フロアにあるエアハンドリングユニットと呼ばれる機器で、
客室や通路など供給しています。
ユニットがどこのエリアに供給しているかはダクト配管図を見れば
分かるようになっています。
今後調査する過程でユニットによっては感染者が出ていないなどの
事実が分かってくればウィルスの分析にも役立つのではないでしょうか。
今回の事案を発端に、IMOや各国で感染症予防について
議論が深まることを願っています。