海難事故を起こさないためには
福岡県福岡市の博多港で11月28日、パナマ船籍の貨物船「LADY ROSEMARY」(総トン数9576トン)が防波堤に乗り上げた事故で、事故の捜査を行ってきた福岡海上保安部は14日、事故原因は人為的なミスだったと発表ししました。
貨物船の船長は取り調べに対して、「見るべき灯台を間違えた」と供述しているとのこと。同保安部は、船長を業務上過失往来危険容疑で書類送検する方針としている。
発表では、船長は過去十数回、博多港の出入港経験があり、事故当日は目視だけに頼り、レーダーなどで自船の位置を把握していなかった。そのため、灯台と灯台の間を通過するはずのところを、灯台の位置を間違えていたため針路の設定を誤り、防波堤に衝突したとのことです。
事故当時、船長のいる船橋ではフィリピン人船員2人(おそらくDeck OfficerとQM)がかじ取りなどを担当していたが、いずれも船長の指示通りに動かしており、同保安部は責任はないと判断しているとのこと。
通常であれば、船長のほかにいたDeck Officerが他船の動向を確認したり、レーダーやGPSで自船の位置を確認しているはずである。それであれば、船長が目視だけで操船の指揮を執っていたとしても、他の船員が「何か違う、おかしいぞ?」と思ったはずである。「このままの針路だと灯台の間通過できないですよ」と
たった一言あれば、今回の事故は防げたかもしれません。
最近のニュースで何か通じるものがある事故が報道されていた。それは、令和3年6月23日(水)に滋賀県高島市の饗庭野(あいばの)演習場で発生した120mm迫撃砲弾の演習場外着弾事件である。
この事件は、訓練中の誤射により120ミリ迫撃砲の砲弾が場外の山林に着弾したものです。訓練していたのは高知駐屯地の第50普通科連隊の約50人。誤射があったのは6月23日で、陸上自衛隊が12月9日に調査結果を公表しました。
調査結果では、同隊の隊員らは次の射撃任務を急ぐあまり、火薬の量を減らしていない砲弾を誤って発射(火薬量が多い砲弾を発射)。砲弾は想定より2・4倍の飛距離が出て、演習場から約1キロ離れた山林に着弾した。
陸上自衛隊によると、若手の1等陸士は発射前に通常より火薬の量が多い砲弾が運ばれていくのを見ており、調査に対し「おかしいと思ったが確証を持てず、上司に言い出せなかった」と述べたとのこと。この時に火薬量に関して指摘できていれば、今回の事故は防げたかもしれません。
これは決して気付いていた陸士が言わなかったことが悪いのではなく、言い出せない環境を作った上長、指揮官、陸上自衛隊に責任があるのです。
船舶と陸上自衛隊と一見共通点がないように見えますが、階級(職位)社会という点では同じです。
人為的ミス(ヒューマンエラー)を考える上で、人間の取り巻く環境は無視できません。
人が他人に与える影響としては、個人が持つ「パーソナルパワー」と、組織の階級・職位によってもたらされる「ポジションパワー」の2つがあります。
このうち、ポジションパワーによる影響の度合いを「権威勾配」と言われています。
権威勾配自体がダメという意味ではなく、適切な権威勾配は、責任者の明確さや情報コントロールやリーダーシップの発揮には必要不可欠です。
しかし、
権威勾配が急すぎる
→メンバーが発言しにくい、各メンバーのリソース(意見・知識・経験)の発揮そのものに影響が出て、チームのパフォーマンスを発揮できない。
権威勾配が浅すぎる
→馴れ合いや持たれ合いが生じ、誰がリーダーシップをとるべきか明確ではなくなり、チームのパフォーマンスに影響が出る。
適切な権威勾配を保つ責任は、上位者・上位職にあり、チームメンバー間の自由なコミュニケーションやリソースの活用をすることで大きな事故を未然に防ぐ役割を持つのです。
人間が関与する部分の改善は、規則・手順書の作成や設備(ハードウェア)、作業環境の改善といったものと比べてすぐに効果でるものではありません。
「俺の言う通りにやればいい。」
「サードのくせに意見するな。」
こんな会話がされている船橋や機関制御室では、すでに大きな事故の基になるエラーチェーンが繋がり始めているかもしれません。
失敗やミスはゼロ(0)にはできない
人間は必ずミスをするもの
という事を認めることが出発点であり、
失敗やミスを起こしにくくし、起きても重大な事故にならないようにする
という前提で対策をしていかなければなりません。
「見るべき灯台を間違えた」貨物船、防波堤乗り上げ…流出油20トン相当を回収(読売新聞オンライン) – Yahoo!ニュース
火薬量誤り迫撃砲が場外に…1等陸士「おかしいと思ったが言い出せなかった」(読売新聞オンライン) – Yahoo!ニュース
饗庭野演習場における場外着弾事案に係る事故調査結果について20211209.pdf (mod.go.jp)
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