知床遊覧船の事故について2
2022年4月27日、ようやく有限会社知床遊覧船の社長による記者会見が開かれました。この会見の中で報道各社からは、知床遊覧船の安全管理規程や安全管理体制についての質問が多く見受けられました。遊覧船会社の社長によると、社長自身が安全統括管理者、「KAZUⅠ」の船長が運航管理者を兼任していたことが明らかになりました。
社長は、もともと他の社長が行っていた遊覧船事業の会社を引き継いで、社長に就任したことが分かっています。そもそも、人の命を預かる旅客運送事業の安全に関わることになる安全統括管理者に、全くの素人が就任することは問題ないのかという疑問が浮かんできませんか。
まず、安全統括者とはどのようなことをするのでしょうか。安全統括管理者の職務については、海上運送法第10条の3第2項第4号に規定されています。(法23条により準用する。)
海上運送法第10条の3第2項第4号
安全統括管理者(一般旅客定期航路事業者が、前3号に掲げる事項に関する業務を統括管理させるため、事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にあり、かつ、一般旅客定期航路事業に関する一定の実務経験その他の国土交通省令で定める要件を備える者のうちから選任する者をいう。)の選任に関する事項
前3号に掲げる事項とは・・・
1 輸送の安全を確保するための事業の運営の方針に関する事項
2 輸送の安全を確保するための事業の実施及びその管理の体制に関する事項
3 輸送の安全を確保するための事業の実施及びその管理の方法に関する事項
上記の赤字で規定されているところが、安全統括管理者の選任要件となります。つまり、要件を満たさない人は安全統括管理者になることはできません。
そして、海上運送法には記載されていない一般旅客定期航路事業に関する一定の実務経験その他の国土交通省令で定める要件は、海上運送法施行規則第7条の2の2に規定されています。(同規則第23条の4において準用する。)
旅客不定期航路事業者の選任する安全統括管理者の要件は、次のいずれにも該当することとする。
1 不定期旅客航路事業の安全に関する業務の経験の期間が通算して3年以上である者又は地方運輸局長がこれと同等以上の能力を有するものと認めた者であること。
2 海上運送法第10条の3第7項(他の規定において準用する場合を含む。)の命令により解任され、解任の日から2年を経過しない者でないこと。
海上運送法第10条の3第7項
国土交通大臣は、安全統括管理者又は運航管理者がその職務を怠った場合であって、当該安全統括管理者又は運航管理者が引き続きその職務を行うことが輸送の安全の確保に著しく支障を及ぼすおそれがあると認めるときは、一般旅客定期航路事業者に対し、当該安全統括管理者又は運航管理者を解任すべきことを命ずることができる。
はたして社長が遊覧船事業を引き継いだときに、安全統括管理者の要件を満たす実務経験があったのか、なかったとすれば、実務経験と同等以上の能力があると認めた地方運輸局長の認定は正しかったのか。
遊覧船「KAZUⅠ」が海底約120メートルで発見されました。今後の船体の引き揚げにより、事故の実態解明に繋がることを願います。
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