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Release: 2023/10/10 Update: 2023/10/11

知人紹介制度の落とし穴

 皆様、こんにちは。

 いよいよ「物流問題2024」が脚光を浴びて、業界全体に危機感が漂ってきました。
 しかし、危機感を持って活動しているのはトラックやバスだけのように感じ、海上輸送分野である内航海運業界は今のような対策で大丈夫でしょうか。

 海運業界では近年、若い年代の船員数に若干の増加傾向がみられるようですが、業界全体でもっと船員数を増やしていかなければ高齢船員問題や今まで以上の海上輸送能力の向上を考えていくと、政府が考えるような海上輸送は確保できない恐れがあります。

 船舶所有者、船舶管理事業者や船員派遣会社(以下、船舶所有者等)は船を運航するための人材確保に必死で、船員の激しい奪い合いが起こっているという話もある。

 そのような状況下でSNS上で見受けられる「雇用船員への知人紹介に対する謝礼金」について考えてみたいと思います。

 仮に船舶所有者等に雇用されている船員が、その者の知人(船員としての募集に応じる者)を紹介したとしよう。(※この場合、知人は海技免許を持っている必要はなく、船員経験も関係もない。あくまでも、紹介された知人が船員としての募集に応じて雇用されることを言います。)

 そして、船舶所有者等が紹介された知人を船員として雇用した際、知人を紹介してくれた雇用する船員に対して謝礼金として1人当たり3万円を支払ったとする。2人紹介すれば6万円である。

 これは船員職業安定法第46条に規定するの報酬給与の禁止に該当する行為である。

(報酬給与の禁止)
第46条 船舶所有者は、募集に従事する被用者に対し、いかなる名義でもその募集に対する報酬として、金銭その他の財物を給与してはならない。
 この規定に違反した場合の罰則もある。

第113条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

一~二(略)
三 第44条第2項の規定に違反したとき。
 また、会社として違反しているときは、会社については罰金刑が科されることになる。
第115条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第111条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する
 では、被用者(雇用する者)以外であれば違法ではないのか?
 
 そもそも、船舶所有者等が被用者以外に船員募集を行わせ、その対価を支払う場合には国土交通大臣の許可が必要となる。しかも、船員の募集を行うものは1社のみしか受託できず、同時に複数の船舶所有者等のため船員募集はできない。
 また、許可を受けずに被用者以外に船員募集を行わせた船舶所有者は、罰則の対象となる。
(委託募集)
第44条 船舶所有者は、その被用者以外の者に報酬を与えて船員の募集を行わせようとするときは、国土交通大臣の許可を受けなければならない。
2 船員の募集を行う者(船舶所有者及び船員の募集に従事する被用者を除く。以下「募集受託者」という。)は、同時に二以上の船舶所有者のため募集を行つてはならない。

第112条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

一~二(略)
三 第44条第1項の規定に違反したとき。
第115条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第111条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する
 
 しかも、船員募集を受託した者は、他の者にその募集を委託してはならず自分で募集業務を行わなければならない。船員を募集に従事する被用者も同様である。
 
再委託の禁止)
第47条 船員の募集に従事する被用者及び募集受託者は、その募集を他人に委託してはならない。
 

第113条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

一~五(略)
六 第47条の規定に違反したとき。
 
第115条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第111条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する
 
 なお、許可を受けて船員募集することを受託した者に対して支払う報酬にも上限がある。
 
船員職業安定法施行規則
(法第44条に関する事項)
第20条 
1~3 (略)
4 委託募集に従事する者に支払われる報酬は、応募して就職した者一人につき、その者が就職した最初の一箇月に支払われた報酬(給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず労働の対償として船舶所有者が船員に支払うすべてのもの。)の総額(応募者が就職した場合の雇用期間が一箇月未満のときは、その期間に支払われた報酬の総額)の一割以内とし、その総額は、告示で定める額を超えてはならない。
 
船員職業安定法施行規則に規定する委託募集に従事する者に支払われる報酬の総額が超えてはならない額
(昭和24年1月18日 運輸省告示第14号 最終改正:平成17年2月28日 国土交通省告示第223号)
 
 船員職業安定法施行規則(昭和23年運輸省令第32号)第20条第4項に規定する委託募集に従事する者に支払われる報酬の総額が超えてはならない額は、3千円とする。
 
 しかも、船員の募集に応じた知人から感謝されることもあるだろう。その際に知人から御礼金を受け取ることはもちろん、食事を奢ってもらうことも禁止されている。
 
(報酬受領の禁止)
第45条 船舶所有者、船員の募集に従事する被用者及び募集受託者は、募集に応じた者から、いかなる名義でも財産上の利益を受けてはならない。
 

第113条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

一~三(略)
四 第45条の規定に違反したとき。
 
第115条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第111条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する
 
 以上が紹介制度の謝礼金についての落とし穴である。
 船員不足とはいえ、法令遵守の上、節度ある船員募集が行われることを祈るばかりです。
 
クイーンビートル 博多港