一票を無駄にしない!
衆議院議員の任期が残り1年を切りました。東京・永田町はもちろん、
福岡県や山口県でも国政を狙う候補者や現職国会議員の動きが活発になってきたように感じます。
国政選挙、例えば衆議院選挙では、日本国民で年齢満18歳以上の者であれば原則、
投票したい候補者に一人一票を投じる権利が憲法により保障されています。
私が外航船員だったときは、乗船していた船舶の船籍がパナマであったために国政選挙の際は、
投票することができませんでした。また、その前の船員養成機関時代の実習生で乗船しているときは、実習生は船員に該当しないため、日本籍船であっても洋上投票制度の対象外でした。
当時は、日本籍船において乗船している船員には洋上投票が認められていました。
※洋上投票制度とは、船員が船舶上でファクシミリ装置を用いて行う不在者投票制度です。
しかし、公職選挙法の改正に伴い、平成29年4月10日から洋上投票制度の対象となる者の範囲が拡大されました。主な改正点は以下の通りです・
1.洋上投票をすることができる船舶の範囲が拡大
洋上投票をすることができる船舶に、外航船舶運航事業を営む日本の事業者が使用する日本籍船以外の外国船籍の船舶(いわゆる便宜置籍船)が加わりました。公職選挙法では、指定船舶以外の船舶であって指定船舶に準ずるものとして、
「船舶運航事業者等の提出する定期報告書に関する省令第三条第一項の規定により同規則第二条第四項に規定する外航船舶運航事業を営む者が報告する当該事業の用に供する船舶のうち、船籍が日本以外の国である船舶」
とされました。(公職選挙法施行規則第17条の2第2項)
2.不在者投票管理者及び立会人がいない船舶での洋上投票の手続を整備
これまで洋上投票は不在者投票管理者(船舶の船長)及び立会人がいる下で行われていましたが、不在者投票管理者及び立会人がいない船舶でも洋上投票をすることができるよう手続が整備されました。
これは実務をカバーする画期的な規定です。今までの日本人船員は、乗船する船舶の船長は日本人で、その他職員や部員も日本人であるため洋上投票が可能でした。(公職選挙法第49条第7項)
近年、日本籍船においても日本の海技免状を持たない外国人も乗船することが可能となっています。(外国人船舶職員承認制度)
日本人の航海士や機関士が一人でオール外国人船員の船に乗船することは珍しくありません。
洋上投票において、不在者投票管理者となる船長が外国人の場合は、その船長は不在者投票管理者者となることはできません。(公職選挙法施行令第55条第8項)
つまり、船長が外国人であると不在者投票管理者がいないため、洋上投票ができないことになります。
そこで、不在者投票管理者の管理する場所において投票することができないものに対して特例を設けて、投票を可能にしています。
指定船舶等に乗つて本邦以外の区域を航海する船員で、投票送信用紙及び投票送信用紙用封筒の交付の請求をする時において当該指定船舶等に乗る日本国民たる船員の数が二人以下であると見込まれる場合における当該船員、または、投票送信用紙及び投票送信用紙用封筒の交付の請求をする時において当該指定船舶等に乗る日本国民たる船員の数が二人以下である場合における当該船員
となっています。(公職選挙法施行令第59条の6の2)
※指定船舶・・・船舶安全法にいう遠洋区域を航行区域とする船舶その他これに準ずるもの
として総務省令で定める船舶(公職選挙法施行規則第17条の2第1項)
この指定船舶には、自衛隊が運用する南極観測船しらせや鯨類の資源調査に
従事する日新丸などが該当します。
※指定船舶等・・・指定船舶又は法第四十九条第七項に規定する指定船舶以外の船舶であつて
指定船舶に準ずるものとして総務省令で定めるもの
(公職選挙法施行規則第17条の2第2項)
3.洋上投票の対象となる船員の範囲が拡大されました。
洋上投票の対象となる船員に、実習生等が加わりました。
実習生が洋上投票を行う場合には、地方運輸局等から交付される練習船実習生証明書を添付の上、住所地の市町村の選挙管理委員会に申請して、選挙人登録証明書の交付を受けることが必要です。
※実習生・・・実習を行うため航海する学生、生徒その他の者であつて船員手帳に準ずる文書の
交付を受けているもの(公職選挙法第49条第7項)
洋上投票の対象は拡大されたが、一票を投じるのに選挙管理委員会に提出する書類がいくつかあります。そこで、一人の日本人若手航海士がオール外国人の日本籍船の貨物船(船長も外国人)に乗船すると仮定して必要な書類と手続きを確認してみましょう。
〈乗船前〉
まずは、乗船前に市町村の選挙管理委員会に対して、選挙人名簿登録証明書の交付を申請します。
そして、選挙人名簿登録証明書の交付を受けます。
次に、投票送信用紙等の交付を請求をすることになりますが、以下の条件に該当するか検討が必要です。
①乗船する船舶が本邦以外の区域を航海しようとする場合において、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の期日の公示の日の翌日から選挙の期日の前日までの間が当該船舶の航海中であること
②当該選挙の当日不在者投票事由に該当すると見込まれるとき
①と②の条件を満たしているとき、指定市町村の選挙管理委員会の委員長に対し、郵便等によることなく、所要の事項を記載した文書で、選挙人名簿登録証明書を提示して、投票送信用紙等の交付を請求できます。
※指定市町村の選挙管理委員会となりますので、選挙人名簿登録証明書の交付を受けた選挙管理委員会とは違う場合がありますので、注意が必要です。
そして、今回は船長が外国人であるため、不在者投票管理者の管理する場所において投票をすることができない船員に該当します。この場合、乗船する船舶が本邦以外の区域を航海するという条件が必要となります。
その上で、投票送信用紙等の交付の請求をする時において乗船する船舶に日本国民たる船員の数が2人以下であると見込まれる場合でなければなりません。そして、船員法第18条第1項第2号に規定する海員名簿の写しその他の乗船する船舶に日本国民たる船員の数が2人以下であると見込まれることを証する書面が必要となります。また、乗船予定の船舶の船舶検査証書の写しも必要です。個人では船舶検査証書の写しや海員名簿などは入手できないので、所属する会社を通して取り寄せる必要があります。
指定市町村の選挙管理委員会から、投票送信用紙及び投票送信用紙用封筒並びに確認書(当該船員の指定船舶等への乗船及び指定市町村の選挙管理委員会の委員長と当該船員との間のファクシミリ装置による通信を確認するための書面(以下「確認書」)が交付されます。
〈乗船・出港〉
いよいよ待ちに待っていない乗船です。この際に、選挙管理委員会から交付を受けた書類はすべて持って乗船しましょう。そして、出港です。
選挙が公示される前にやらなければならないことがあります。それは、確認書の送信です。
衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の期日の公示の日の翌日から選挙の期日の前日までの間が指定船舶等の航海の期間中にかかる場合において、不在者投票をしようとするときは、あらかじめ、現在する場所において(航海中であればその洋上)、選挙管理委員会から交付された確認書に署名をし、指定市町村の選挙管理委員会の委員長にファクシミリ装置を用いて当該確認書を送信します。そして、指定市町村の選挙管理委員会の委員長から電話その他の方法により、確認書をファクシミリ装置により受信したことの確認を受けなければなりません。
確認書の送信や船舶電話やインマルサットで電話を受ける要領は、航海海域によっては時差があるので、確認書を交付する選挙管理委員会にしっかり話を聞いておかなければなりません。
確認が終われば、あとは選挙の公示を待つだけです。
〈選挙の公示〉
確認を受けた船員は、当該選挙の期日の公示があった日の翌日から当該選挙の期日の前日までの間に、当該船員の現在する場所(航海中であれば洋上)において、自ら、投票送信用紙の必要事項記載部分に所要の事項を、投票送信用紙の投票記載部分に当該選挙の公職の候補者1人の氏名を、それぞれ記載し、これを指定市町村の選挙管理委員会の委員長に対し、ファクシミリ装置を用いて送信します。
送信をした船員は、直ちに、自ら、投票送信用紙の投票記載部分と必要事項記載部分とを切り離し、当該投票記載部分を投票送信用紙用封筒(投票用紙と一緒に渡されるもの)に入れて封をし、当該必要事項記載部分を当該投票送信用紙用封筒の表面に貼り付けます。
投票に関しての送信などは、「自ら」行わなければなりません。つまり、候補者の名前を書いた投票用紙を当直のフィリピンクルーにお願いするのは違法ということになります。
選挙人でない者が投票をしたときは、一年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
(公職選挙法第237条第1項、第255条第5項)
〈帰港〉
乗船している船舶が日本に帰港したとき、速やかに封をした投票送信用紙用封筒及び確認書を指定市町村の選挙管理委員会の委員長に提出しなければなりません。
仮に、送信をしなかった船員は、日本に帰港した場合には、速やかに投票送信用紙及び投票送信用紙用封筒並びに確認書を指定市町村の選挙管理委員会の委員長に返すとともに、選挙人名簿登録証明書を提示しなければなりません。
乗船前から船が日本に帰港するまでの一連の手続きを、船員本人だけで行うのはかなり難しいように感じます。代理人による請求も可能となっていますが、ボランティアでやってくれる人もいないでしょうから、全日本海員組合や会社が代理人に支払う報酬の補助を出す仕組み作りが必要と思います。
御供所町国際法務事務所
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