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Release: 2020/11/25 Update: 2020/12/15

クイーンビートル運航が意味するものとは?

11月24日、JR九州高速船株式会社は、博多―韓国・釜山に導入を予定だった新型高速船クイーンビートルを、暫定的に国内観光用に就航させる考えを明らかにした。九州運輸局長の岩月理浩氏も10月の定例会見で、旅客船業者支援の観点から「(同社から)相談があれば希望に沿うよう対処したい」と後押しする姿勢を示しているという。新型のクイーンビートルは10月中旬、オーストラリアの造船所から博多港に到着したが、新型コロナウイルスの影響で日韓航路は現在運休を余儀なくされている。

この新型のクイーンビートルが船の国籍ともいわれる船籍が、PANAMA(パナマ共和国)となっている。

これまでは韓国という外国を経由するため航路に就航させるため、パナマ船籍としていても問題はなかった。しかし、国内の旅客運送となると一つの壁が立ちはだかる。

船舶法第3条である。

第3条 日本船舶ニ非サレハ不開港場ニ寄港シ又ハ日本各港ノ間ニ於テ物品又ハ旅客ノ運送ヲ為スコトヲ得ス但法律若クハ条約ニ別段ノ定アルトキ、海難若クハ捕獲ヲ避ケントスルトキ又ハ国土交通大臣ノ特許ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス

(日本船舶でなければ(つまり外国船籍の船舶は)開港していない港または日本の各港間において物品または旅客の運送をすることはできない。ただし、法律若しくは条約に別に定めがあるとき、海難等を避けようとするとき又は国土交通大臣の特別な許可を得たときは、運送ができる。※要約)

 

この規定があるため以前までブームとなっていた外国の大型クルーズ船は、必ず外国の港を経由しなければ日本沿岸で運航できません。また、コンテナ輸送に関しても、外国で船積みしたものを日本の2つ以上の港に運ぶことは可能ですが、日本の港で積んだコンテナを違う港で降ろすことはできません。

 

そして、これらの運送を外国船籍に許してしまうと、以下のような問題が生じることになります。

 

①外航船と同様に内航の日本籍船舶は極端に減少し、日本人船員も雲散霧消することとなり、国内物流の4割に上る産業及び生活物資の安定輸送を外国船籍船、外国人船員に委ねることになります。このことによって多くの船主および運送事業者は、撤退を余儀なくされ、海技の伝承が困難となり、海洋国家の確立が危うくなることが懸念されます。

②大震災や有事の際に住民避難等のために必要があれば、国は海上運送法の航海命令、国民保護法の従事命令等を出すことができますが、これは主権の及ぶ日本船であるからこそ可能なことです。
また、最近の例として、東日本大震災による福島原発事故の放射能汚染を恐れた一部の欧州船が東京への寄航を忌避し、神戸で荷揚げしたため物流の現場が大混乱に陥ったことがありました。そのような状況下でも福島原発沖を航行して被災地の港に燃料や物資を輸送したのは日本人船員が乗り組んだ内航船でした。

平成25年4月に閣議決定された新しい海洋基本計画では、国際的な慣行となっているカポタージュ制度を維持することが明記されています。カポタージュ制度が、国家の安全保障と国民経済の安定にとって欠かせないものであり、だからこそ、グローバルスタンダードとして世界の多くの国々で実施されている点が改めて確認されたと言えます。

(内航海運組合総連合会HPより引用)

 

これらの規制のことを「カボタージュ規制」と言います。外国船籍の船が国内運航するということは、物品や旅客の運送の問題にはとどまらず、日本船舶の確保や日本人船員の育成、日本の安全保障にも及ぶ大きな問題なのです。

今回の件に関しては、批判的な意見は少ないように感じます。ただ、本来であれば、パナマ船籍を日本籍に変更して旅客の運送の許可を取るのが通常の手続きです。パナマ船籍で登記や抵当権設定をしていることも関係しているかは分かりませんが、日本籍船にするにしても所有に関しても一定の制限があります。

今回のケースで言えば、船舶法第1条第3号及び4号です。

第1条 左ノ船舶ヲ以テ日本船舶トス

三 日本ノ法令ニ依リ設立シタル会社ニシテ其代表者ノ全員及ビ業務ヲ執行スル役員ノ三分ノ二以上ガ日本国民ナルモノノ所有ニ属スル船舶
 
四 前号ニ掲ゲタル法人以外ノ法人ニシテ日本ノ法令ニ依リ設立シ其代表者ノ全員ガ日本国民ナルモノノ所有ニ属スル船舶
 
以上の規定により、一定数の外国籍の役員がいる法人では日本籍船として登記、登録ができないのです。
 
これ以外にもパナマ籍船のルールと日本籍船のルール(JGやNK)との関係もあり、船籍が変わればルールが違うところは適合するように改造若しくは設備の変更が必要になるため、船籍変更(フラッグバック)はそう簡単ではありません。
 
どちらにしろ外国籍船の国内運航と今後のカボタージュ規制の動きには注目です。

クイーンビートル 博多港 釜山

 

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