知床観光船の事故について1
2022年4月23日に発生した知床観光船「KAZU Ⅰ」の海難事故について、お亡くなりになられた10名の方のご冥福をお祈りいたします。また、以前行方不明になられている乗客、船長と甲板員の方が一刻も早く救助されることを願うばかりです。
各社の報道からの情報を精査すると、今回の海難事故は完全に「人災」です。
遊覧船を運航する事業者は、旅客船事業を行う際に管轄の地方運輸局に「安全管理規程」を届出なければなりません。この安全管理規程の中には、運航についての取り決めが記載されている「運航基準」が含まれています。そして、事業者として運航を管理する運航管理者、事業の運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者を安全統括管理者を選任して、運航事業の輸送の安全確保に取り組み、法令順守や安全最優先意識の徹底をしなければなりません。
今回の事故を起こした事業者がどのような安全管理規程を届け出ていたかは分かりませんので、一般的に作成される内容について解説します。
安全管理規程に記載する内容には、運航の可否判断について定めておかなければなりません。(海上運送法第10条の3第2項、施行規則第7条の2第3号ロ(2))
〇条 船長は、適時、運航の可否判断を行い、気象・海象が一定の条件に達したと認めるとき又は達するおそれがあると認めるときは、運航中止に措置をとらなければならない。
2 船長は、運航の中止に係る判断が困難であると認めるときは、運航管理者と協議するものとする。
3 (略)
4 第2項の協議において両者の意見が異なるときは、運航を中止しなければならない。
5~6(略)
7 運航中止の措置をとるべき気象・海象の条件及び中止の後に船長がとるべき措置については、運航基準に定めるところによる。
〇条 運航管理者は、運航基準を定めるところにより運航が中止されるべきであると判断した場合において、船長から運航を中止する旨の連絡がないとき又は運航する旨の連絡を受けたときは、船長に対して運航を中止を指示するとともに、安全統括管理者へ連絡しなければならない。
2 運航管理者は、いかなる場合においても船長に対して発航、航行の継続又は入港を促し若しくは指示をしてはならない。
〇条 経営トップ又は安全統括管理者は、濃霧注意報の発令など運航基準の定めるところにより運航を中止するおそれがある情報を入手した場合、直ちに、運航管理者への運航の可否判断を促さなければならない。
2 経営トップ又は安全統括管理者は、運航管理者から船舶の運航を中止する旨の連絡があった場合、それに反する指示をしてはならない。
3 経営トップ又は安全統括管理者は、船長が運航の可否判断を行い、運航を継続する旨の連絡が(運航管理者を経由して)あった場合は、その理由を求めなければならない。理由が適切と認められない場合は、運航中止を指示しなければならない。
〇条 運航管理者及び船長は、運航中止基準にかかる情報、運航可否判断、運航中止の措置及び協議の結果等を記録しなければならない。
今回のような19トンの小型船であれば、事業者が作成すべき運航基準は、波高1.0~1.5mが上限ではないでしょうか。報道によれば、出航時点で強風・波浪注意報が発令されており、風速も16m/sで波高3mが観測されていたとのことですので、到底運航基準を満たしていたとは言えない状況です。
今後の海上保安庁の捜査や地方運輸局の監査などで、なぜ事故は起こってしまったのかを明らかにしてもらい、同じような事故が起きないように取り組みや対策を再構築していただきたいものです。
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